【閉店した喫茶店】まとめ *1.宝石 2.歩歩 3.スカラ座 4.沙婆裸 5.テンダリー
秋は船が出た後の港のようだ。
気づいたら先ほどまでそこに繋がれていた船がいなくなり、残像が波に消されてだんだんぼやけていく。夏の終わりは寂しげな気分になるので、それならいっそ究極に悲しみに浸りきってしまおうと思う。
こんかいは、残念ながらその長い歴史を閉じた喫茶店をまとめようと思う。
さみしさはまとめて放出しよう。
まずは、
1.板橋駅近くにかつて存在した
【純喫茶 宝石】
王冠のようなロゴの看板が印象的だ。既視感あると思ったら、
グリーティングカードで有名なホールマーク社のロゴにちょっと似ている。
だからdeepな内装のわりには、ファンシーな印象が残っている。
マンハッタンの色あせた大きな写真が、壁一面にキラキラ輝いていた喫茶店だった。
店内にはインベーダーゲームもあった。看板と同じデザインのマッチも可愛かった。
2.練馬区江古田にかつて存在した
【珈琲舎 歩歩】
地元マダムが休日におしゃべりに来る、街に馴染んだ喫茶店。引越しの都合でこのお店を閉店することになったと聞いた。優しいお母さんが作る太陽のようなオレンジのナポリタンは。温かい美味しさだった。
3.新宿にかつて存在した
【スカラ座】
閉店のニュースが流れた時のファンの悲痛な叫び声はいまだ記憶に残っている。長い歴史とともに、非常に愛された名店だったことがわかる。かつて私が新宿に勤務していた頃、愛煙家の先輩とランチ後の一服によく通った。私が勤務した新宿のオフィスも今はもうない。思い出の在り処がだんだんなくなっていく気持ちは、ヨドバシカメラ前のバスターミナルからバスを見送ったあとのさみしさに似ている。インテリアは重厚な歴史の香りを残していた。
4.新宿にかつて存在した
【沙婆裸】
2015年の年末にその一報を耳にしました。靖国通りの新宿三丁目と歌舞伎町界隈の間の大通り沿いにありました。意外なところに奇跡的に残っていた喫茶店でした。まあるいソファとミッドセンチュリーのようなインテリアが心地よかった。マダムが、『これでやっと休めるわ、ずっと働いてたのよ。』と最高の笑顔で見送ってくれました。”本日は閉店しました”の札がもう、裏返ることはありませんでした。
5.葛飾区金町にかつて存在した
【テンダリー】
どこかの本で読んだのですが、このお店は音楽家だったマスターが開店し、長年ご夫婦で仲良く営業されていました。数年前にマスターがなくなり、その後マダムが一人で切り盛りしていたお店でした。マスターと共に過ごしたお店をできる限り続けようという温かい愛を感じるお店でした。常連さんがほとんどでお客さんが食後に食器をカウンターまで片付けたり、マダムは買い物に行くからとお客さんを残して外出したりするゆるい感じが心地良かったのです。ここはナポリタンが美味しいとのこと。オーダーすると、肩をガックリ落とし『またか〜』とつぶやいたマダムの姿に思わずほんわかしてしまいました。
港というものは郷愁を誘う景色だ。船出はさみしい。だが、そこは行ってらっしゃいといらっしゃいが交わる場所だ。いつかそこにかつてあった景色と、新しい景色がグラデーションになり一体化していくのだろう。
【すべて2015年訪問】