純喫茶丸 8knot    〜喫茶店で考えた〜

2015年からの純喫茶訪問ブログ。純喫茶をはしごする船ということで”純喫茶丸”という船の名前がタイトルです。

【東京都:駒込 北区西ヶ原】フランス菓子CADOT (カド)*2017年8月31日閉店*

洋菓子CADOT(カド)は北区西ケ原にある洋菓子店だ。
川端康成が愛したお店として、それはそれは別格の存在感がある。
店内には直筆の推薦文があり、氏の愛好ぶりがありありと浮かんでいる。歴史的なお店が消えていこうとする瞬間にいると、どうしても感傷的にならざるをえない。

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川端康成直筆の推薦状のあるお店

カド創業者である高田壮一郎氏のお父様が、川端康成氏と親交があったそうだ。
川端氏は、カドのオープン前に見本品を食したとき、フランスの本物の味を日本人に知ってもらえることを本当に喜んでいたようだ。直筆の推薦文から、このお店のオープンを心待ちにしていた様子が伺える。

高田氏は、当時すでに在フランス日本大使館のレセプションに於いて菓子制作を担当していた。その腕前を高くかわれていた職人だった。親友のご子息の成長は我が事のように嬉しいことだろう。川端氏は

フランスでも滅多に味へない本格的な良心的な作品である。

とカドの菓子を大絶賛している。他にも文豪の川端氏には史跡や博物館はあるだろうが、プライベートに訪れたこの街角の個人商店は、仰々しくなく文豪に近づける気がして、大変良かった。

隙間に漂う思い出

田山花袋の「東京の三十年」によると、明治期には西ケ原周辺にある飛鳥山は、富士山が見える名所だったようだ。富士山の半分は東京のものだと言って、人々は東京から見える富士山を楽しんだとのこと。現在の東京では、高い建物に登らない限り、富士山がみえるなんて想像ができない。西ケ原周辺は、いまでも東京の原風景を偲べる感があるが、個人的に飛鳥山公園には特に思い入れが深い。父親に連れられ路面電車に乗ってよく来ていた。そこには珍しい回転式の展望台があり、そこでポップコーンを食べるのが好きだった。でも、その展望台も今はない。東京からは、なくなっていくものばかりだ。人の思い入れというものは、新しいものでは埋められない。思い出はほんのわずかな隙間に収められ、想像力だけが養われる。それでも顔をあげると、流れる空と季節が巡ることは変わらないと気づく。そして美味しかったとか、温かった気持ちだけがぼんやりと思い出される。カドのマダムはとても優しい。夏休みに、海や山のあるおばあちゃん家に行き、帰りたくなかいと駄々をこねたことを思い出す。夏が終わるのは嫌だたなぁ。思い出だけを心に残して日常に戻る。その思いを深呼吸で体にしみわたらせ、また日々過ごしていく。

バタークリームへの憧れ

バタークリームのケーキは昔はあまり好きではなかった。今はバタークリームへの憧憬の方が強い。早速カドの人気ケーキである〈モカ〉にフォークを入れる。丁寧に作られていると思う。バタークリームのモカは、濃厚こってりな口当たりだ。口の中でとろけてふわっと消えて無くなるケーキではない。ずっしり重みのあるスポンジに重厚なクリームだ。ほんのりした苦味が大人の味だ。あぁなくならないでほしい。ずっと残っていてほしい。これだ。私が子供の頃、年に一度の記念日に買ってもらえたケーキといえばこのバタークリームの味なのだ。私が物心ついたときに感動したケーキだ。他に好きなものができても、やっぱり最初の衝撃って覚えているものだ。

1960年当時の最新だったケーキは、今も変わらずおいしい。変わらないことの素晴らしさを感じる。同じことをずっと続けることってものすごい才能だ。誠実でコツコツと、真心を感じる。しかも57年も続いたのだ。日本に本物を紹介してくれたお店だ。感謝しかない。本当に長い間ありがとうございました。

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東京都北区西ヶ原1-49-3

【2017年8月訪問】