純喫茶丸 8knot    〜喫茶店で考えた〜

2015年からの純喫茶訪問ブログ。純喫茶をはしごする船ということで”純喫茶丸”という船の名前がタイトルです。

【東京都:本郷三丁目】ボンナ 喫茶店の旅 丸ノ内線全駅制覇の巻その21*本郷三丁目*

 丸ノ内線全駅制覇の旅のつづき。
今回は本郷三丁目駅から徒歩10分程度にあるボンナだ。少し駅から離れるがお許しを(願)。
丸ノ内線よりも、南北線東大前駅からの方が距離は近いが、私は毎回本郷三丁目駅からくる。

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インテリアに包まれる喫茶店

 ミッドセンチュリーのインテリアがある程よくコンパクトで静寂な空間だ。
すぐにその雰囲気に溶けていく。この街は全体的に閑静だ。
東大の周辺には研究に使えそうな古本屋さんや、純喫茶のような一軒家が多い。
この喫茶店は、知性という名だ。知性の街にとても似合うと思う。
創業は昭和30年ごろという老舗だ。時代にあわせて変わることができる柔軟性も知性の一つだろう。入り口付近にあるカウンター席は、一人客がパソコンを利用しやすいようにと、最近改築したらしい。

東京でここまで時代を閉じ込めた空間はとても珍しい。照明の仄暗さや、お店の大きさとマスターの佇まいが絶妙に合っているのだろう。

吉本ばななさんの『人生の旅をゆく』

最近、吉本ばななさんの『人生の旅をゆく』という本を読んだ。

47章からなる読みやすいエッセイだ。旅紀行でもあるが、ばななさんの記憶をも旅している。懐かしいこと、大切にしたいことや、なくなってしまったものへの思い出がとても温かい。

私はこの日、諸事情で役所に行ったが、気づいたら1時間30分も順番を待っていたようだ。夢中でこの本を読んでいたら、そんなことすっかりどうでもよくなった。

この中では、とく、「もずく」という章が好きだ。

私たちは死ぬときにお金も家も車も恋人も、何も持っていけない。自分が着ている洋服も指輪も、何一つ持っていけないのだ。持っていけるのは、もう持ちきれないほどになっている思い出だけだ。悪い思い出もきっとあるだろう。
でも、それはきっと死ぬときは良い思い出に変化しているだろう。
そして良き思い出をたくさん創ることだけが、人生でできることなのではないか、そう思う。(出典:『人生の旅をゆく』吉本ばなな NHK出版)

 

とくに遠くに行かなくても、特別なことをしなくても、身近な人や、友人や家族、愛するペットと、いまこの瞬間にどれだけ豊かな時間を過ごすかや、 向いていることを精一杯取り組んで誠実に生きることが大事だと、そう言われた気がした。非日常の旅との対比で、日常の人間同士のささやかな営みが、とても贅沢ということを教わった。

もずくもずくもずく

もずくの香りで友人との思い出がよみがえってくるお話、「もずく」の章で、もずくのパスタの作り方が出てくる。これがとても美味しそうなのだ、早速作ってみた。

もずくとニンニクとゴーヤーをさっと炒めてパスタに和えて醤油で味付けし、パルミジャーノチーズをかけて食べるだけ(出典:同上)

東京は、本当に湿度が高く、真夏日がつづく。夏の旬は、体が欲しがる味だった。この沖縄素材づくしのパスタは本当に美味しかった。パルミジャーノがなかったのでとろけるチーズをのせ、火を止めて余熱で溶かす。本は〈旅する箱〉なので、自分も本の中に入り、主人公になってその時代や背景を旅する気分になる。だからもずくの章を読んだ私は、すっかりもずくをたべる準備ができていた。


旅にでて、良き仲間と思い出をつくるのもいいものだ。なかなか頻繁には無理だから、私は、喫茶店でインテリアに溶け込むか、本の中に溶け込む。そんなささやかな日常で、よき思い出を今日もつくる。

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東京都文京区本郷6-17-8

【2015年7月訪問、他】