純喫茶丸 8knot    〜喫茶店で考えた〜

2015年からの純喫茶訪問ブログ。純喫茶をはしごする船ということで”純喫茶丸”という船の名前がタイトルです。

【東京都;茗荷谷】ビー玉 喫茶店の旅 丸ノ内線全駅制覇の巻その24*茗荷谷* お供:田山花袋『温泉めぐり』

丸ノ内線全駅制覇の旅、今回は茗荷谷だ。茗荷谷駅はこの日始めて下車した。
ここ一帯は、文教の街というイメージだ。

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ビー玉のあおいあおい海

ビー玉はモヤモヤさま〜ずで映ったそうだ。大江麻理子さんの代に。
今はちがうが、この番組は喫茶店で締める流れが好きだった。
茶店ビー玉は、ロゴが可愛い。”てん”がビー玉になっているのだ。
インテリアのカウンターにある水色のビー玉は、キラキラと光を蓄えた海水を表現しているように見える。ランチョンマットがロープワークの柄だから、海をモチーフに統一しているらしい。

壁一面のガラス窓は光がたっぷり入るので、そういうお店で窓側にすわるときは、
光を反射させたくて、珈琲よりアイスティーを頼むことが多い。

温泉めぐりと喫茶店めぐり

最近読んでいる本は田山花袋の『温泉めぐり』(岩波文庫)だ。作者は、文学だけでなく紀行文も多数執筆していたようで、日本全国の温泉を巡った本も書いていた。○○めぐりをしたくなる気持ちは、喫茶店をめぐる私は親近感がわき、読んでみたくなったのだ。今夏、旅先の四国で聴いたラジオで、この本の紹介をきいた。読んでみると、温泉のお湯の感想は一割もない。多くをしめるのは、道中での友人との会話や、宿の主人や宿泊客のにたいする作者の勝手な妄想である。おもしろかった。やはり文学者が書く紀行文は普通のガイドブックとは一味違うし、表現力豊かな描写で読みやすい。一泊の予定が四泊五泊の予定に変わるだとか、避暑ならぬ避寒のために温泉に行けるとか、そんな贅沢はできないからとても羨ましい。「都会からやってくるにわか温泉ファンとは違うんだぞ」という作者のこだわりが、文章からにじみ出ている。そのフェチ度の高さに、わたしの”田山花袋”像が一瞬で変わった。いい意味だ。今でも温泉ガイドとして活用できるかな。

何もないところで心惹かれること

特に惹かれたのが、次の文だ。

(引用)小さい温泉場、後ろは岩山、前は下田へ通じる街道と田畑、それより他に見るものもない温泉場、それでいながらちょっと通り過ぎたばかりの小さなその田舎の温泉場の姿が未だにはっきりと私の頭に印象されて残っていた。(略)

....だたそれだけだけれども、そのあたりの静けさが、のどけさが、またさびしさが私の心を惹いた。私はそこにも物語が二つも三つもかくされてあるのを思った。人知れず起って、そして人知れず消えていくであろうと思われる物語りを想像した。
(出典:田山花袋「温泉めぐり」p17 岩波文庫 )

 

 景勝といえるものはないかもしれないが、それぞれの地には人々が紡ぐ日常がある。日々胸にしまうほどでもない、名もない人々のささやかな幸せ、温かい気持ちや記憶は、喜びも癒しも、渦巻く思いも、その人が世界を退場した時に一緒に消えて無くなる。書籍になったり日記に書くほどでもない、毎日沸き起こっては消えていく小さな感情が、一見何もない場所にもある。人々の物語があり、でもそれはいつかは消えて無くなってしまうものだと知ると、切なくなる。温泉から浮かんではなくなる水蒸気や湯けむりを見ていると儚い気持ちになる。あぶくのように消えてしまうのだからこそ、せめて自分の心や気持ちだけは大切に扱いたいし、自分の大切な人とは良い感情の交換をして、嫌なことなんて水に流してしまえばいいと思える。喫茶店を巡っている時も、私はそれに近いことを考える。

茶店ビー玉の、海のようにキラキラ光るビー玉を見て、そう思いました。

懐かしさの正体

”なつかしい”という言葉は『温泉めぐり』の中に頻繁に出てくる。例えば、

(引用)温泉というのはなつかしいものだ。長い旅に疲れて、どこか この近所に静かにひと夜、二夜ゆっくりと寝てゆきたいと思うおりに、思いもかけなくその近くに温泉を発見して汽車から降りて一里二里を車または、乗合馬車に揺られ、山裾の村に夕暮れの煙の静かになびいているものを見ながら、そこに今夜は静かにゆっくりと湯にしたって寝ることができると思うほど旅の興を惹くものはない。(出典:同上 p11)

 

 

この”懐かしい”の意味は、どういう意味なのだろうか疑問がわき、早速辞書をひく。

”懐かしい』”用法は、そのむかし、「懐く」と同義、離れがたい気持ちを表す用法で使われていたようだ。喫茶店に入ると、一度もきたこともないのになぜか浮かぶ”懐かしい”という気持ち。その正体は、”ここから離れがたい”という気持ちだったのだ。

「どこがいいんだろうね〜」そう、マスターが言うお店ほど、素敵でせつなくて離れがたいお店なのだろう。

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東京都文京区大塚3-6-1

【2017年7月訪問】