【愛知県:名古屋市西区】まつば “小倉トースト元祖
名古屋の喫茶店シリーズ綴る。まつばは、名古屋市西区にある喫茶店だ。
小倉トーストを出した元祖の喫茶店ということと、外観が好みでいちばんに訪問した。
大正5年開業の〈満つ葉〉というお店がルーツだ。そのお店はもうないが、
ここで初めて小倉トーストが誕生した。
学生さんがぜんざいにトーストを浸して食べていたことをヒントにして、誕生したメニューだという。先代が〈満つ葉〉で10年ほど働いたのち、暖簾分けで、昭和8年に〈まつば〉をここに創業した。
今年でもう84年目だという。現在のマスターは2代目。49年間ずっとお店一筋だ。
いまでは、現存する最古の家族経営の喫茶店だという。
面白いことに、メニューに小倉トーストはない。
思わず、小倉トーストはあるのかと、訊ねたことをきっかけに〈まつば〉の歴史についてお話がいろいろと聞けた。
小倉トーストなんて甘いだけ、ただあんこ挟んだだけよ。でもうちのはバターも塗ってあるから、という。
「特別じゃないからわざわざメニューに載せてないの」
「最近小倉トースト食べたいって人がよく来るようになったんだけど美味しい?」
「何を読んできたの?」
と聞かれ、
私は、東京から来たこと、『名古屋の喫茶店』という本を読んできたこと、
ここが小倉トーストの元祖と知り訪問したことを伝えた。
「それでこの円頓寺に来てくれたの?」
「世の中何が起こるかわからない面白い」
「ここを目指してきたなんて、びっくりして......もう。たまげた」
と喜んでくれ、とても丁寧にもてなしてくれた。
すると意外な話もきけた
「ここは古くてね。椅子も穴があいてて。こんな状態でお客さんを迎えるなんて
失礼だから改装しようと思っているの」
今年中のはなしだという。聞けば、息子さんがお店を継ぐ計画があり、その際に改装するそうだ。
この空間が改装されるのは寂しい気がするが、それはおもてなしの心ゆえだ。
「最先端のカフェ風にするつもりはないのよ。お客さんを迎えるのに穴が空いたソファだったらあまりにも失礼でしょう?」という。
真のプロフェッショナ魂と、サービス精神溢れるママやマスターが好きで、お客さんが集まるんだろう、と思った。
だからこのお店は長く愛されているのだと。
長く残るのは理由があるのだ。
マッチは倉庫を掃除したら、一箱ぐらい出てきたようでいただけた。
とにかくこの貴重なお店が、まだまだ続いていくようでホッとした。
帰ろうとすると、東京から来た子をほっておけないと、四間道(しけみち)という
古民家が並ぶ街並みや、円頓寺商店街をわざわざ案内してくださった。
かつての円頓寺商店街は、もっと距離が長く、お店がたくさん、お客さんもたくさんで
賑わっていたことや、
閉店が相次いで、一時期寂しくなったけど、最近は古民家を改装した新しいお店を新店若い人たちがオープンさせていることを、いろいろ教えてくださった。
近くの名古屋城の観光の帰りでもいいので、多くの人にぜひ〈まつば〉に寄ってほしい。
大好きなお店になった。
【2017年4月訪問】