純喫茶丸 8knot    〜喫茶店で考えた〜

2015年からの純喫茶訪問ブログ。純喫茶をはしごする船ということで”純喫茶丸”という船の名前がタイトルです。

【神奈川県:鎌倉】豊島屋3階 パーラー扉 お供:川端康成『山の音』

今回は鎌倉の喫茶店の記事を書こうと思う。扉は、JR鎌倉駅前にある、鳩サブレーでおなじみの豊島屋の3階にあるパーラーだ。

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鎌倉が舞台の小説

最近読んでいるのは川端康成の『山の音』だ。湘南や江ノ島のように、海のイメージがある鎌倉だが、鎌倉の山を舞台にしたこの小説がふと読みたくなった。夏で始まり、秋で終わる小説だ。今から読みだすには、とても良いタイミングだと思う。春や冬の情景も出てくるが、晩夏から秋への切なさが、いい雰囲気で書かれている。蝉もなかなか重要な登場人物(虫物?)だ。横須賀線の車窓のシーンや、四季折々の仏都鎌倉の草花が登場する。読んでいて活き活きとした情景が浮かんでくるような色彩豊かな物語だった。

「山の音」掲載の花言葉

作中にいくつもの草花が出てくるが、花言葉を知っていたらより趣きがあるのではないかと思い、花言葉を調べながら読んだ。

主人公(♂)が嫌いだと、”八つ手”には「分別」や「健康」という花言葉がある。この花は、主人公の心配事や悩みごとを象徴していると思う。これらは、主人公から最も手遠いところにある事柄だ。主人公は不健康である。 頭だけ外して修理に出したいとか、頭を外して胴体だけを休ませたいともいう。考えすぎで脳が疲れているのだ。主人公は神経質すぎる。印象的な颱風の夜のシーンがある。その嵐の翌日に、頭ごと散ってしまったひまわりがある。対照的に強風に負けず咲き続けていた葉鶏頭があるが、その花言葉は「不老不死」だ。

作中に登場する植物は多岐にわたり、物語の情景に彩りをそえているが、その花言葉も意味深だ。

 

枇杷.....あなたに打ち明ける 密かな告白

アカシア.....秘密の恋

よもぎ.....決して離れない

シダの葉.....誠実

....過去の思い出

 

これらはすべて作品のキーワードだった。

特に衝撃的だったのは、カラスウリ。なんと「男嫌い」という花言葉だ。他に「良き便り」や「二面性」という意味もある。花は夜だけしか開かない花として有名だとか。夜だけ開く花とは、それは主人公(♂)が夜に見る”夢”の比喩なのかもしれない。しかし男嫌いという意味は、一体何だろう。それはこの小説を読んだ人なら理解できるかもしれない。誰のことなのか、それは読んだ人によって解釈が違うかもしれない。章ごとの主人公が見る夢の描写も面白い。


川端康成の傑作

『山の音』のストーリーは、純愛かミステリーか。ページをめくる手が止まらない。練られた作品だと唸りながら読んだ。鎌倉、新宿御苑、本郷といった関東の身近な土地が舞台なのも興味を持って読んだ理由だ。舞台は終戦後の日本で、戦争未亡人や戦地に赴いた人物が出てくるのも、一読に値する。鎌倉関係の品を読んでみたい、と軽い気持ちで手にとったが、さすがノーベル文学賞作家の作品だ。深い山のように高密度で底知れない深みに嵌った。


茶店 ”扉”の話

茶店 鎌倉の扉は、鎌倉が舞台の小説を読んだことで思いだした喫茶店だ。

この日の鎌倉ハムのサンドイッチは肉厚でジューシーだった。美味しかった。パンはトーストしたものと、焼いていないものとの二種類があって楽しめた。鎌倉駅前なのに、意外とすいている穴場パーラーだ。1階のお土産売り場は混雑していたが、3階は意外にも空席がある。窓からバスターミナルを眺めながら、これからどこに行こうか計画を練るのが楽しかった。まさに鎌倉の扉の象徴ともいえる喫茶店だ。
豊島屋は、「材木座」「由比ガ浜」「腰越」各海岸のネーミングライツを得たことで有名だ。けっきょく、〈鳩サブレー海岸〉ではなく、海岸名をそのまま残す、と英断した。地元を愛する企業が権利を得るとこうなるのだ!この対応はすばらしい!

 

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神奈川県鎌倉市小町1-6-20 扉ビル 3F

【2015年10月訪問】