純喫茶丸 8knot    〜喫茶店で考えた〜

2015年からの純喫茶訪問ブログ。純喫茶をはしごする船ということで”純喫茶丸”という船の名前がタイトルです。

【東京都:東中野】洋菓子 ルーブル*セレナーデと氷島の漁夫*

ルーブルのセレナーデは美しい。セレナーデとはこちらのお店で提供しているパフェの名前だ。センスが素敵だ。ピンク色の何ともみずみずしい色合いのパフェは、アイスクリームがメインだ。初々しく甘い味。むかしトリノという三色のアイスバーがあったが、そのストロベリー味を少し洗練させた味がした。懐かしい。

  

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セレナーデとは、恋人の部屋の窓下でかなでる恋愛の歌のこと。

ルーブルへのお供には、どんな本がいいか考えてみた。カズオ・イシグロの『夜想曲集』という短編集が一番に思いついた。

英国は霧のイメージがあり、少しアンニュイな雰囲気があるところが美しいと思う。
北フランスの港町にも少し似た雰囲気があるようだ。19世紀のフランスの作家ピエール・ロチの名作『氷島の漁夫』もロマンティックだ。北フランスブルターニュの漁村を舞台に、移ろいやすい無限の世界に生きる人々をの姿を描いた作品だ。海と共に生きる宿命というべき、運命に翻弄される男女の物語。切ない旋律のセレナーデが似合う絵画のような美しい作品だった。

眼にはわずかに海とおぼしいものが認められるだけだった。最初それは何も写すもののない揺れ動く一種の鏡のようといったような外観を呈していたが、それは何やら霧の原にでもなっているに見えた。そしてそれから先はもう何も見えなかった。それには水平線もなければ境目もないのだった。出典(ピエール・ロチ「氷島の漁夫」

海と光とバラ色が全て混ざったような麗しい世界。北極の夜のない夏には、夜を媒介しない境界のない世界がやってくる。

いつの間にか次の日になっているような。不思議な夜だ。

海面の鏡が輝き、夜と海しかない世界にバラ色にほのかに伸びるいく筋もの線を映し出していた。(同上)

そんな境界のない夜と朝の間に聴くなら、セレナーデがよく似合う。

荒涼とした港町の高台の侘しさに対して、海辺の人々の純粋で溌剌とした前向きさがコントラストになっていた。『氷島の漁夫』よかった。

誰にも触られていない果物のようにいかにもフレッシュなビロードの肌触りだ。(同上)

こうして喫茶店と本は不思議と縁をもたらしてくれる。
東中野ルーブルに入ると、現実と祈りが曖昧になって、心が溶かされほぐれていく。

氷島の漁夫』は、田山花袋の『東京の三十年』という本の中で、
給料を前借りしてでも欲しかった作品だとあった。たまたま喫茶店への道すがらに古本屋さんで見つけた時は即決だった。

 

氷島の漁夫』は日本でいうと、明治時代の作品だ。
作中に船内の聖母像に祈る場面があるが、技術が発達する前の航海は、信仰や迷信にすがらないとならないほど、運命に翻弄されるものだった。むかし、船をつくる際は、芸術性を競い、船の舳先にマリア様や騎士などの彫刻が施されていたそうだ。往時の航海は祈りと共にあった。今は効率やスピード優先の商船には、船首像があるものはほとんどない。練習船などには、その名残があるそうだ。
例えば練習船日本丸がそうだ。

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*前回は絶品のミートソースを食べていました。

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【2015年9月他】

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