【東京都:六本木】れいの 喫茶店のチーズケーキ編
今日は六本木の〈れいの〉をお届けする。
某ファッション誌に掲載されており、ずっと行きたかったお店だ。
六本木の街はキラキラのネオンで輝いている。
しかし少し歩けば、そこはネオンも減る。
この店は夜に浮かぶ森の喫茶店のたたずまいであり、不思議な感覚になる。
チーズケーキにはアルコールが少し効いていて、
コーヒーも濃いめで美味しい。
〈れいの〉という店名の由来は、おきゃくさんが自分の居場所を電話で説明するのに、”例の(れいの)コーヒー屋さん”といっているのを聞いて、ピンと来たらしい。
ところで、船の性別は女性である。
英語の代名詞はSheである。
英語には性別の概念はないが、vesselの語源に性別があったため、
女性性を引き継いでいるという。
vesselの意味を英和辞典でみてみる。
1.容器,器(つぼ・コップ・瓶・なべ・バケツなど液体を入れる通例丸型の容器をいう)
2.(通常ボートより大きな)船
3.導管、脈管、管(新英和中辞典(研究社)第6版)
船より先に、”容器”という意味が書かれている。
この用例は聖書にあり、人間のことをvesselと表現している。
editionによって表現が異なるが、vesselかbodyと表現されている。
下の引用は、ペテロの手紙第一章だ。
夫婦のことを記述した内容で、妻=weaker vessel。という意味である。
giving honor to the woman, as to the weaker vessel, as being also joint heirs of the grace of life; that your prayers may not be hindered. 夫たちよ、妻を自分よりも弱いものだとわきまえて生活を共にし、命の恵みを共に受け継ぐ者として尊敬しなさい。そうすればあなたがたの祈りが妨げられることはありません。(文藝春秋 「新約聖書」新共同訳 解説 佐藤優)
△と▽
最近読んでいるダン・ブラウンの『ダヴィンチ・コード』にも興味深いシーンがある。作中で男性と女性のシンボルを説明しているシーンがある。
三角(△)が男性で、逆三角形(▽=Vの字)が女性の象徴だという。
▽は子宮の形にも似ているとも語られている。
また海の英語語源にくわしい佐波先生の著書には、
vesselについてこうある。
VesselはVaseを語源とする言葉。ラテン語のVasに由来し、容器の意である。液体に関する容器にしばしばこのVesselが用いられる。vessel blood(脈管)capillary vessel(毛細管)など。(成山堂「海の英語」佐並 宣平)
子宮は命の血脈を宿す場所である。vesselという単語はとても興味深い。
堪航性
女性の象徴である”▽”のイメージは、海に浮かぶ船の形に見える。
乗船する船員の国籍はさまざまだ。それぞれ母国語が異なっても共通言語が必要である。
もちろんそれは英語なのだが、それ以前にイメージと、共通認識があれば通じる。
船=▽=女性という連想ゲームをした可能性があるかもしれない。
実は、安全性を確保するために必要な船の形は、この逆三角形(▽)の形なのである。
先頭のマリア様
かつては船首部分(フィギュアヘッド)に装飾を凝らし、マリア像を形どった船も多かったそうだ。
今日では航行の安全性を優先し、船首部分はできるだけ水の抵抗がない方がいいため、合理性を追求する貨物船にはほとんど見られない。
現代のような造船技術のない、いにしえの航海はまさに神頼みだった。
船を女神様とし、祈りと共に海上に過ごしていたのだろうと想像する。
海や船のことばは、他にも聖書に由来するものがたくさんある。
以前記事にしたジャコブスラダーもそうだ。
海は、人も船も自然も、運命共同体でありその調和が大事だと教えている。
最近はジェンダーフリーで、差別をかんじさせない言葉をえらぶ傾向があるが、
船を女性とするのは、決してネガティブな意味ではない。
- 語源の言語に性別があったこと。
- 聖書から引用しているのだということ。
船を尊重し、大事に扱うようにとのメッセージだと思われる。
これからも、海と船と人が、調和することを願っている。
【2017年8月訪問】
【東京都:築地市場】喫茶マコ ※2018年4月閉店*
築地場外にあった〈喫茶マコ〉が閉店した。
赤いスケルトンの扉が妖艶で好きだった。訪問は2015年のことだった。
市場が移転すると知り、その前にと慌てて駆け込んだわけだが、
すったもんだで移転が延期した。
まだ楽しめるのだと知り、私は嬉しかった。
この日の話では「場外のお店は残るよ。うちも」とママは語っていたが、
2年の歳月は事情を変えた。
こちらの喫茶店を取り上げた雑誌は数多ある。
どの雑誌のもママが写っていたと思う。名物女将である。
チャキチャキの築地っこという表現がぴったりだ。
訪問時も、最新の掲載雑誌を見せてくれ、嬉しそうだった。
素人の私の撮影でさえ、快く引き受けてくださったのだ。
築地の喫茶店はどれも趣のある風情で、
その活気がいつまでも続いて欲しいと願う。
残念なことに、移転延期の期限のカウントダウンが始まってしまった。
他にも築地の喫茶店には足を運んでいるので、近日中に記事にしたいと思う。
【2015年8月訪問】
【東京都:王子】街角 *2018年4月ごろ閉店*
また残念ながら、閉店した喫茶店のお話を綴る。
王子の街角が閉店したそうだ。twitterの喫茶店仲間である
@satochibi さんの投稿で知った。
私は訪問二度目でドアを開けることができた。
一度目は土曜日で、すでに閉店時間をすぎていた。
のちにそのことをママに伝えると、その頃からすでに不定期営業だったという。
「定時にはできない。開店は10時過ぎになることもあるし、夕方に早く閉めたり、土曜日も休むことがあった」とママはいう。
ようやく私の訪問がかなったのは、2017年5月のある平日のことだ。
あっという間に時が過ぎ、
気づけば再訪までに1年近く経っていた。
海洋文学のような年代物のインテリア
ここは、海洋文学に出てくるような、
古き良き物語の舞台のようなインテリアだった。
外からもみえる場所に、大きな舵が飾ってある。
木製の本格的なものだ。お店の雰囲気は妖艶で独特のオーラがあり、
昔ながらの木製のボックス席に座ると、まるで船室にいるような気分になった。
MAX Visibility
この当時、私の心にはもやがかかっていたのだが、
ここで過ごしていたら、なぜか心が晴れたことを思い出す。
店内でぼんやり過ごしていた私に、優しいママが心地よい距離感をとってくれた。
お店を出るころには、視程が広がるのを確かに感じた。
水尾が消えるまで
ピラフが素朴なカレー味で美味しかった。家庭的な味で懐かしく、それも癒しになったのだと思う。
茶色い空間に、カラフルでポップな灰皿とグラスがアクセントの本当にお洒落な空間だった。
船を見送った港に佇むような気持ちだが、行ってしまった船の描く水尾が消えるまで好きなだけ余韻に浸りたい。
2018年4月ごろ閉店
【2017年5月訪問】
【東京都:志村三丁目】カフェベルニーニ 喫茶店のチーズケーキ編
完全オリジナル焙煎
こちらは一番リピートしているお店だと思う。
みせの奥で自家焙煎をしていて、全自動ではなく店主の技で完全オリジナルで焙煎をしている。店主の岩崎さんは、ジャパンバリスタカップの審査員の経験があり、
腕には間違いない。この店のコーヒーとチーズケーキの組み合わせは無敵だ。
最近はダン・ブラウンの『ロスト・シンボル』を読んでいるが、
中でもコーヒーすきにとって印象に残っているシーンがある。コーヒーの芳香がただよってくるようだ。
主人公のラングドンが、序盤に、友人であり恩師のピーター・ソロモンから、
日曜の早朝に電話を受ける場面である。
六時ごろ家に戻ると、スマトラ産のコーヒー豆を手で挽く朝の儀式に取りかかり、キッチンに満ちるエキゾチックな香りを楽しんだ。(略)コーヒー作りを再開し、グラインダーに豆を追加した。けさは少しよけいにカフェインがいる。長い一日になりそうだ。(出典『ロスト・シンボル』ダン・ブラウン:越前 敏弥:訳)
これを読んでいたら、スマトラコーヒーが飲みたくなり、
先ほどシングルオリジンのスマトラ マンデリンを購入してきた。
マンデリンはインドネシア産地のコーヒーだ。
エキゾチックコーヒー
マンデリンはインドネシアのスマトラ島で栽培される豆で、日本人にも欧米人にも特殊な香味で人気が高いという。
本書でエキゾチックな香りのコーヒーとして登場するにふさわしい銘柄だ。
インドネシアはブラジル、ベトナム、コロンビアに次いてコーヒー豆の生産量が高い国である。生産量は多いが、上質なマンデリンは希少品種で高級品なのだ。
ラングドンが愛飲するコーヒーとして、スマトラ産のコーヒーを描くことで、
彼の特別感を出している気がする。
私はコーヒーをたくさん飲むが、まいかいお店のオススメを注文するせいもあり、
あまり銘柄にはこだわらないし、じっさいよくわからない。
だから、いざ好きな豆は?といわれても答えるのが難しい。
そういう時はミーハーよろしく、最近本で見かけたから、という理由で選んだりする。
気になるシーンや、あとで調べ物をしたい箇所などに、付箋をたくさん張るのだが、私のよむ本には、コーヒーや喫茶店にまつわる記述に付箋がはられていることがしばしばある。
癒しの銘柄選び
こちらのお店は浅煎り、中煎り、深煎りと、豆によって焙煎方法を変えている。
選ぶのが楽しい。産地や煎り具合を比べつつ、いろいろな銘柄を試すのがいいのだ。
最近はエルサルバトルや、エチオピアの豆などを購入した。
迷ったらお店オリジナルの〈ベルニーニブレンド〉を買えば間違いない。
【2015年4月訪問他】
【東京都:神田】カフェ ビオット 喫茶店のチーズケーキ編
カフェビオットは、神田美倉町にある喫茶店だ。
店先では焙煎中のコーヒーの香りが芳しく、入らずにはいられない。
コーヒーの相棒チーズケーキは、スパイスが効いた大人の味だ。
人生とは海のよう。私たちの人生はそこに浮かぶ船のよう。
海に由来する表現はたくさんあり、今も地上に生きている。
例えば「潮時」もそうだ。
”潮”は船の世界では大事な概念である。
貨物船は貨物をいかに多くいかに安全に運ぶかが大事だ。
船にはそのための安全基準が設けられている。
喫水線(きっすいせん)と言って船にはある一定のラインが設定されており、
船体がそれ以上浮かんでいないと(あるいは沈んでいないと)いけないラインがある。
その目的は複雑で多岐にわたるが、
ここでは特に、浅瀬にいて船の底が海底にぶつからないようにするため、と思っていただければよい。
貨物を積むと、その重量分だけ船は沈下する。
そのため潮汐がふえれば、よりたくさん積めることになる。
船の荷役をする際は、潮が満ちる方を望むことが多い。
でも上部にあるクレーンにぶつかるほど高すぎてもいけない。
潮の高さによる調整は、微妙なさじ加減が必要なのだが、
ちょうどいいタイミングのことを、”潮時”という。
”潮待ち”という言葉は、そのまさにちょうどいいタイミングを待つ、という意味で使う。決してネガティブには使わない。
しかしスポーツ選手等の引退に際し、
「もう潮時ではないか」などと書かれていると、肯定的には感じない。
一般的に”潮時”というとネガティブなイメージを持つ方が多いのではないだろうか。
じじつ、文化庁の国語課の調査では”ものごとの終わり”という意味で捉えている人が多いと書かれていた。
潮時について
問1.潮時とは本来どのような意味なのでしょうか。
答:ちょうどいい時期 という意味です。
辞書で調べてみましょう。
「ものごとを行ったりやめたりするのに適する時。好機。
(出典:「日本国語大辞典 第2版」(平成12年〜14年 小学館))
あることをするためのちょうど良い時期。好機。時期
このように潮時とは本来、あることをするためのちょうど良い時期を表しており、
ものごとの終わりという意味ではありません。
(出典:文化庁 広報誌 ぶんかる 言葉のQ&A 003より)
船の世界で使う”潮時”という言葉は「満ちていく潮」の方がgood timingでしょう。
いっぽうで潮干狩りをしたい人には干潮の方がgood timingでしょう。
海の潮は、満ちるのか引くのか、どちらが好機なのかは、それぞれの世界で変化する。引退とセットで使われる潮時の場合にも、美しく去りたいという美学もあるだろうし、ものごとの終わりがネガティブであるとも限らない。
このように人生の歩みや生き方を表するのに、
海から生まれた言葉を借用していることが多く、とても興味深い。
”人生とは海のよう。私たちの人生はそこに浮かぶ船のよう。”だからでしょうか。
だから海の言葉が好きなのだ。
海の言葉には哲学やロマンが溢れており、素敵だと思う。
(参考図書:「海の英語」佐波 宣平 成山堂書店)
【2017年9月訪問】
【東京都:秋葉原】タニマ *2018年3月27日閉店*
「タニマが閉店する......!」そんな情報が流れたのは、3月の半ばのことである。
またもお見送りか。
タニマは秋葉原の賑わう通りの谷間にあって、
せわしない日常と、ゲーム街やアイドル劇場との谷間にある理想郷だった。
このお店はとにかく昭和のかわいさ満載だった。
看板の黄色と青の絶妙な配色、ひさしのストライプにテーブルクロスのギンガムチェックがとにかくポップだ。全体的に好きなインテリアデザインだった。
店内ではカードゲームにいそしむ青年たちで溢れ、
秋葉原文化が色濃く感じられるお店だった。
普段東京に住む私にとっても、ともすれば見過ごしがちな、
東京の良きカルチャーを実感できるお店だった。
ここに来るだけで、秋葉原に何日も滞在するのと匹敵するくらいのお店だったと思う。
閉店のニュースを耳にすると、いつも船を見送った後の港のような寂しさが押し寄せる。寂しいから、ここで過ごしたポップな時間を、クリームソーダの水面にそっと揺らした。明日からの新しい潮流に思いを馳せる。
【2017年3月27日閉店】
【東京都:神保町】カフェ トロワバグ 喫茶店のチーズキーキ編
今日は神保町の〈トロワバグ〉を紹介する。
先日の〈カフェ トロワシャンブル〉と姉妹店だという。
この街には喫茶店は数あれど、駅の出入り口に近く立地も抜群だ。
大好きな本屋街で散々宝探しを探したあと、現実に戻る前に、いまいちど息を整えるのために入る。本を探した後はテンションが高まっているからだ。
そこかしこの談笑が
一枚板のオーラ満点のカウンターに華やかなフラワーアレンジメントがある。
ウッディな茶色いインテリアに、華やかな彩りが添えられてていいアクセントになっている。グラタントーストが名高いが、
トロワシャンブルと同様、チーズケーキが濃厚でとてもおいしい。
コーヒーとチーズケーキの組み合わせの正義をまた実感する。
店内は学生さんや、ママとお話ししたいのだろうというお客様で満席だ。
店内に溢れる談笑が、すべて楽しそうだった。
コーヒーマシンのオートパイロット
さて今日はオートパイロットの話をしたいと思う。
オートパイロットは、本来、船舶の自動操縦システムのことなのだが、
これも船員仲間どうしは、人に対して使う。
例えば社内にあるコーヒーメーカーで珈琲を淹れていた時の話だ。
私は、コーヒー豆をセットせずにお湯だけが落としていた......ということが数回ある。このルーティンを無意識におこなっているので、
手順が抜けても気づかないのだ!
はー、あぶない。最終的にものすごく透明に近いコーヒー水が出来上がっていた。
「今日のコーヒーなんか薄いんだけど......」と言われてハッと気付く。
コーヒー豆入れてなかったのだ。
この時「(脳が)オートパイロットだったから気づかなかった!」といったらみんな笑っていた。私はコーヒーマシンのパイロットだった。
オートパイロットとは
オートパイロット(autopilot)とは操船時の自動操縦のことだ。
かんたんいいうと、自動車のマニュアルとオートマを思い出していただければいい。
自動で操縦するモードのことだ。
オートパイロットとは、20世紀中盤から大型船に導入され、
ジャイロコンパスなどの方位センサーで方位信号を受け、
目的の針路で航行するように操舵を自動制御する装置だ。(明和海運株式会社 海運豆知識より引用)
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万年筆のパイロット
あの万年筆で有名な〈PILOT〉は、飛行機のパイロットではなく、
船の水先案内人=パイロットにちなんでいる。
PILOT社の創業者二名が元船員だったことに由来してるらしい。
業界を先導するような企業にしたい、という思いで名付けたそうだ。
ちなみに東京海洋大学(当時 東京商船大学)のご出身である。
数年前、パイロットのイメージがどうしても飛行機になってしまっていたとき、
当時の上司からPILOT社の由来をきいて腑に落ちた。
どの世界にも水先案内人がいる。みんながそれぞれ得意なことがあって、
みんな何かの専門家である。
そうやって人間同士、なかよく持ちつ持たれつで生きていけたらいいのに、
と思った。
【2015年10月訪問:他】